緊張して,ホームに降り立ちゆっくりと階段を降りた。階段を降りながら無意識に左を見下ろした。そのとき,瞬間に彼女の姿を見た。
理解したのではなく,ただ見たのだ。実際にそのとき彼女を彼女と認識したわけではなかった。ただちらと見ただけだ。
だから,到着を電話で知らせた。もう携帯電話があったのだ。PHSはあったのだ。
この流れは説明しづらい。見たけれど分かってはいなかったということだ。
それは長い間をおいての再会だった。3回目だ。
緊張して,ホームに降り立ちゆっくりと階段を降りた。階段を降りながら無意識に左を見下ろした。そのとき,瞬間に彼女の姿を見た。
理解したのではなく,ただ見たのだ。実際にそのとき彼女を彼女と認識したわけではなかった。ただちらと見ただけだ。
だから,到着を電話で知らせた。もう携帯電話があったのだ。PHSはあったのだ。
この流れは説明しづらい。見たけれど分かってはいなかったということだ。
それは長い間をおいての再会だった。3回目だ。
その日は,京都の地下鉄東西線の新区間が開業した日で,僕らはその地下鉄に乗っていた。
そもそも,過去の特定の日時を覚えていることが僕にとってはめずらしいことなのだ。その日は自分にとっては記憶に残るべき,残すべき日だったのだ。だいたい,京都は行くと決心してでかけるところで,自分の生活エリアではないし,時間さえあれば,いままでに訪問したことは数えあげることができる。誰と一緒だったのかも言える。
京都は僕にとってはそんなところだ。加茂川や河原町はそんなところだ。
ストーリーが静かで,音楽もいい。ぼくは将棋に興味はないし,棋士の世界もまったく知らないけれど。
猫がかわいくて,声優も好みだ。少し暗くて重いところもあるのだけれど,それを大きく上回る,心があったかくなるホカホカさが好きだ。
要するに好みだ。好きだ。
総理大臣が”鬼滅の刃”を引用したとニュースが言ってた。ぼくは”ヴァイオレット・エヴァーガーデン”が観たい。と言ってるだけだけど。
前に進むために記憶の整理をしているのです。整理しているのは君のことだけではありません。ぼくのあの物語に登場するのは君だけではないのです。もちろん君が出てこないぼくの物語は成立しないことは事実です。けれど,すべてのものがたりに君が出てくるというのは傲慢です。ぼくの君はそこまで傲慢ではありません。
ちゃんとこのことは整理してもう一度電話します。話します。時間はつくろうと思っていますから。
黄色い公衆電話は100円玉をつかうことができたから都内になら30分は話すことができた。彼女を暗い事務所に長時間立たせておく訳にはいかないから,夜の会話は100円で繰り上げることにしていた。そうでない日もあったかも知れない。とにかく,その公衆電話は彼女に電話するためにだけ存在していた。
4畳半の下宿に電話なんかあるはずもない昭和50年頃の話だ。大森駅から下宿まではもちろんいつも歩いた。人通りも少なくなる時間には,環七ぞいの交番のおまわりさんによく職務質問された。平和な時代だった。
話をごまかした。